長年にわたってアジアのフットボールを報じ、今大会も現地で取材を続けている英国出身のマイケル・チャーチ記者によるアジア列強国のレポートをお届けする。各チームのアジアカップ優勝の可能性と、日本との比較も。(翻訳:井川洋一。全2回/中東列強編につづく)

 日本の永遠の宿敵、韓国の現代表には、ひとつの大きな疑問がついて回る。ユルゲン・クリンスマン監督は、本当に“アジアの虎”(韓国代表の愛称)を率いるのに相応しい人物なのか、と。

 それは昨年3月にこのドイツ人指揮官が就任してから、ずっと問われてきたクエスチョンだ。

遠隔操作で指示を送ってきたクリンスマンは…

 現在カタールで開催されているアジアカップにおける彼らの足取りを見るかぎり、ノーと答える人が大半だろう。広く報じられているように、クリンスマンはこの職務を引き受けながらも、ほとんど韓国に滞在せず、自宅のあるカリフォルニアから遠隔で指示を送っていた。それで結果がついてくるならまだしも、就任から5試合で未勝利。すると指揮官は不安を募らせるファンに、「私のことはアジアカップ本大会の結果で評価してほしい」と伝えた。

 蓋を開けてみれば、バーレーン、ヨルダン、マレーシアと同居したグループEで1勝2分の2位──現時点で彼を高く評価する人はいないだろう。先発メンバーだけをみれば、今大会最強のひとつと言えるのに、結果はそれにふさわしいものではない。それでもアメリカナイズドされた現在59歳の指揮官は、西海岸訛りのゆったりした口調で、ポジティブな言葉を発し続けている。

 ソン・フンミン(トッテナム・ホットスパー)、イ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、キム・ミンジェ(バイエルン・ミュンヘン)という欧州トップレベルで活躍する面々は、好調を維持したまま今大会に臨んだ。軽傷を抱えていたファン・ヒチャン(ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ)も、今季プレミアリーグで10得点を挙げている(得点ランキング首位のアーリング・ハーランドとモハメド・サラーは14得点。3位タイのソンは12得点)。

ストライカーの質は韓国の方が上だが

 攻撃面、特にストライカーのクオリティーにおいては、日本より韓国が上だろう。

 だがクリンスマン監督はソン・フンミンの能力を十全に引き出しているとは言えず、ここまでPKでの2得点にとどまっている。そのキャプテンよりも、背番号10をまとうイ・ガンインの活躍が印象に残っている──バーレーンとの初戦では1-1に追いつかれた後、ほぼ独力で2得点を加え、快勝の原動力に。同じスペインの名門クラブで研鑽を積んでいた久保建英と比べると、今のところ、イ・ガンインの方が目立っている。

 ただし、守備面では日本に分がありそうだ。

 韓国は決勝トーナメントに進出したチームで最多タイとなる6失点を喫しており、キム・ミンジェもらしくない姿を見せている。日本も5失点と大差はないが、冨安健洋(アーセナル)が初先発したインドネシア戦では、アグレッシブな守備が蘇った印象だ。

日韓最大の差は、選手層にあるだろう

 そして両者の最大の差は、選手層にあるだろう。

 日本はイラクに敗れた後、先発を8人も入れ替え、望む結果を手にした。これと同じことが、韓国にできるとは思えない。あるいは、それは指揮官がチームを深く知っているかどうかの差なのかもしれないが。

 韓国のラウンド16の対戦相手は、サウジアラビアだ。おそらくファンも、期待より不安が大きいのではないだろうか。それらを踏まえると、韓国の64年ぶりの優勝の可能性は60%くらいだと思う。

豪州監督は森保監督と同じ“サンフレOB”

 オーストラリアは日本と同様に、カタールW杯以降も体制を維持し、グラハム・アーノルド監督が引き続き指揮を執っている。日本代表の森保一監督との共通項はそれ以外にもあり、どちらもかつてサンフレッチェ広島に所属し、東京五輪ではU-23代表チームを率いた(アーノルド監督は短期間ながらベガルタ仙台で指揮を執った経験もある)。

 ただし、両指揮官が起用できる選手の質には、大きな違いがある。

 日本の選手たちの多くが欧州主要リーグでプレーしている一方、現在のオーストラリア代表にはイングランドやスペイン、ドイツ、イタリア、フランスの1部リーグに所属する選手は皆無なのだ(ブライトン&ホーヴ・アルビオンのU-21チーム所属し、3部チェルトナムにレンタルされたキャメロン・プーピオンは招集されていない)。

 ハリー・キューウェル、マーク・ビドゥカ、マーク・ブレシアーノ、マーク・シュウォーツァーらが、欧州の第一線で活躍していた頃と比べると隔世の感がある。選手のクオリティーだけで言えば、現在の“サッカールーズ”(オーストラリア代表の愛称)はここ四半世紀で最低の部類に入るだろう。

 現代表の選手の多くはイングランド2部やスコットランド、そして本国のリーグに在籍している。国内のAリーグは、オーストラリアでこの競技のステータスが高くないこともあり(ラグビーなどが主流)、政府や協会から手厚いサポートを受けられず、停滞している。育成も長い間、うまくいっておらず、近年は目立った若手がなかなか出てこない。

 そうした背景により、現代表には国際的に知られる選手がほとんどいないのだ(GKマシュー・ライアンくらいだろう)。

アーノルドが“停滞する母国”に叩き込んだものとは

 それでも、アジアでは今も強豪のひとつに数えられる。

 実際、今大会でも難敵ウズベキスタンと同居したグループBを2勝1分で首位通過している。それはひとえに、60歳のアーノルド監督が築き上げた組織の賜物だ。

 現在60歳の指揮官は「守備的」と指摘するメディアに気色ばむが、現代表の特長は堅守としぶとさにある。4-2-3-1と4-3-3のシステムを用い、主にサイドから相手を攻略し、長身DFハリー・サウター(レスター・シティ)やキャメロン・バージェス(イプスウィッチ・タウン)の頭を目がけたセットプレーが、最大の得点源のひとつだ。

 インドネシアとの16強は突破したが、次の韓国とサウジアラビアの勝者には苦戦するのではないか。オーストラリアの8年ぶりの優勝の可能性は、40%ほどと見る。

<第2回/イランにカタール、サウジ…「中東列強編」に続く>

文=マイケル・チャーチ

photograph by Masashi Hara,Etsuo Hara/Getty Images